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課徴金事例集の公表とインサイダー取引の傾向


証券取引等監視委員会 課徴金・開示検査課
課長補佐 嶋影 正樹




◆◆ 1.課徴金事例集の公表について ◆◆

今般、証券取引等監視委員会(以下「証券監視委」という。)は、「金融商品取引法における課徴金事例集」を公表した。今般の事例集は、通算で第3集目となる。本事例集は、証券監視委の勧告に基づき平成21年6月から平成22年5月までの間に課徴金納付命令が発せられ、取消しの訴えの期間が経過した課徴金事例について、これまでの事例集と同様に、個別の勧告事案を、インサイダー取引、相場操縦、開示書類の虚偽記載といった違反行為の類型別に編集してその概要を紹介している。また、今回は、昨年の事例集公表後に初めて勧告を行った公開買付開始公告の実施義務違反についても、紹介している。
今回の事例集の特長として、事案の内容が理解しやすくなるよう適宜概念図を挿入したほか、違反行為の背景や事案の特徴的な事象について可能な限り掲載し、各章の冒頭に解説ページを設け、課徴金勧告案件の特色をまとめた傾向分析を記載した。


◆◆ 2.インサイダー取引事案の傾向 ◆◆

この稿では、インサイダー取引に係る事案を中心に説明する。
インサイダー取引行為に対する課徴金勧告の件数は、平成17年4月の制度導入以降、5年間(平成22年5月の勧告まで)で、57事例・87件(納付命令対象者ベース)となった。

これまでの勧告案件から読み取ることのできるインサイダー取引事案の傾向は、以下のとおりとなる。
なお、下記の分析は、事例を勧告時点ごとに集計したものを用いて行ったものであり、実際に違反行為が行われた時点と勧告時点とで時間的なずれがあることに留意されたい。

① 公開買付け実施に係る情報に基づくインサイダー取引事案の増加

インサイダー取引事案として勧告した案件をその重要事実別にみると、平成21年度においては、公開買付けの実施に係る情報に基づくものが13件と、それ以前の合計6件を大きく上回る件数の勧告があったことが第一の特色として挙げられる。その背景としては、企業の再編手段として、公開買付けを利用しやすくなっていることもあるが、企業の公開買付けには、その検討の初期の段階から買付企業の内外にわたって関与する者が多いこと、公開買付価格は、その検討時点の株価を上回る価格に設定されることが通常で、情報を得た者が買付けを行い、利得を得ようとするインセンティブを持ちやすいことが考えられる。

なお、上記のような実態を踏まえて、監視委としては、公開買付け実務とインサイダー取引のリスクについて、市場関係者からのヒヤリングを実施し、その結果をとりまとめ、去る7月15日に、市場関係者に対してフィードバックしたところである。この点については、証券監視委のWebを参照いただきたい。
http://www.fsa.go.jp/sesc/torikumi/torikumi.htm

(表1)重要事実別勧告状況
年 度 17 18 19 20 21 22
新株等発行 2 3 3 1 4 1 14
株式分割 0 2 0 0 0 0 2
株式交換 0 0 0 2 2 0 4
合 併 0 0 2 1 0 0 3
業務提携・解消 3 0 5 8 0 0 16
民事再生・会社更生 1 0 0 0 8 0 9
行政処分の発生 0 0 0 0 2 0 2
決算情報 0 5 3 3 2 0 13
バスケット条項 0 0 0 0 4 0 4
子会社の重要事実 0 1 0 0 3 0 4
公開買付け 0 0 3 3 13 0 19
年度別勧告件数 4 11 16 17 38 1 87
(注)1.年度とは当年4月~翌年3月をいう。ただし22年度は5月まで。
2.件数は、納付命令対象者ベースで計上
(以上、(表2)(表3)において同じ)
3.17年度には、新株発行及び業務提携の両方の事実を知って行われたものが2件あり、それぞれに重複して計上している。また、20年度には、業務提携の解消と公開買付けの両方の事実を知って行われたものが1件あり、それぞれに重複計上している。そのため、各欄の件数の合計と年度別勧告件数欄の数値とは一致しない。
4.21年度の公開買付けには、公開買付けに準ずる行為を重要事実とするものも含んでいる。


② 第一次情報受領者によるインサイダー取引に係る勧告件数の増加

インサイダー取引を行う者を、㋑会社関係者及び公開買付者等関係者(金商法第166条第1項又は第167条第1項が適用される者。以下「関係者」という)と㋺第一次情報受領者(法第166条第3項又は第167条第3項が適用される者。以下「情報受領者」という)とに大きく二分してみると、平成20年度までの各年度においては、関係者に対する勧告が情報受領者に対する勧告を上回っていたが、21年度において、情報受領者に対する勧告が21件となり、関係者に対する勧告17件を上回った。情報受領者に対する勧告件数の年度別推移をみても、21年度における件数が大きく増加していることが分かる。
インサイダー取引違反に対する告発・課徴金勧告件数が増加していること、また、上場会社等における情報管理等の内部管理体制の整備が進みつつあること等を背景に、会社の内部情報に触れることのできる者が自らインサイダー取引を行うことに対する規律付けは、徐々に浸透しているものと思われる。その一方で、内部情報を得た者が不用意に他者(家族・親族関係にある者、友人・知人関係にある者が多い)に当該情報を漏らすケースが増えていることが窺える。
会社の重要情報に接触する機会のある者は、当該情報に基づいて株取引を行わないことはもとより、当該情報を他人に漏らさない、他人を違反行為者にさせないことに心がけることが必要である。

(表2)行為者属性(適用条項)別勧告状況
年 度 17 18 19 20 21 22
会社関係者(166条) 4 8 9 14 13 0 48
発行体役員(1項1号) 0 1 1 2 4 0 8
発行体社員(1項1号) 4 3 3 4 7 0 21
発行体(1項1号) 0 2 1 0 0 0 3
契約締結者等(1項4号・5号) 0 2 4 8 2 0 16
公開買付者等関係者(167条) 0 0 0 1 4 0 5
買付者役員(1項1号) 0 0 0 1 0 0 1
買付者社員(1項1号) 0 0 0 0 1 0 1
買付者との契約締結者等
(1項4号・5号)
0 0 0 0 3 0 3
第一次情報受領者 0 3 7 4 21 1 36
会社の重要事実(166条3項) 0 3 4 2 12 1 22
公開買付け事実(167条3項) 0 0 3 2 9 0 14
年度別勧告件数 4 11 16 17 38 1 87
(注)平成20年度においては、違反行為者が複数の違反行為を行った結果、属性(適用条項)を重複して計上しているものが2件ある。(会社関係者中、発行体役員と契約締結者等とに重複計上しているものが1件、第一次情報受領者中、会社の重要事実と公開買付け事実とに重複計上しているものが1件)
したがって、各欄の件数の合計と年度別勧告件数欄の数値とは一致しない。

(表3)情報伝達者の属性
年 度 18 19 20 21 22
会社重要事実の伝達(166条) 3 4 2 12 1 22
発行体役員(1項1号) 2 0 1 4 0 7
発行体社員(1項1号) 0 1 0 5 0 6
発行体の業務従事者(1項1号) 0 0 0 0 1 1
契約締結者等(1項4号・5号) 1 3 1 3 0 8
公開買付け事実の伝達(167条) 0 3 2 9 0 14
買付者役員(1項1号) 0 0 0 0 0 0
買付者社員(1項1号) 0 0 0 1 0 1
買付者の業務従事者(1項1号) 0 1 0 1 0 2
買付者との契約締結者等
(1項4号・5号)
0 2 2 7 0 11
うち 買付対象者役員・社員 0 0 2 3 0 5
(注)平成20年度においては、同一の違反行為者について会社重要事実についての発行体役員からの伝達と、公開買付け事実の契約締結者等(買付対象者役員)からの伝達とに重複して計上している。

    ◎情報伝達者と第一次情報受領者との関係(主なもの)
  • 重要事実に関連した取引関係者(保有株売却交渉相手、第三者割当引受候補先、公開買付者等関係者と公開買付対象者)
  • 親子会社の役員間
  • 会社業務関係者(業務取引先、取材相手先、会社情報提供先)
  • 会社の同僚(同一の営業所勤務)
  • 友人関係(大学時代に同じ部に所属、高校時代に同じ部に所属、小学校の同級生、飲み仲間、スポーツ仲間)
  • 知人関係(会社の元同僚)
  • 家族(夫婦、親子、兄弟)


③ 信用調査会社社員、会社のIR担当者、監査役、税理士、信金職員など、市場において、より高いモラルを求められる者によるインサイダー取引が少なからずあった。(事例7、10、11、20、22、23)


◆◆ 3.事例集掲載個別事例の概要 ◆◆

今回の事例集においては、インサイダー取引に係る課徴金勧告事例を57事例について、紹介している。
その内容を3事例紹介する。


○ メールの誤送信によるインサイダー取引事例(事例7)

本件は、A社の担当者が、会社更生手続開始の申立て後の留意点を各現場に速やかに連絡するためのメールを準備していたところ、当該メールを誤って送信したことにより、会社内外の関係者に重要事実が漏洩することにより、インサイダー取引の端緒となったものである。会社更生という、会社にとって極めて大きなイベントの発生時においては、社内において少なからず混乱が生ずるものと考えられるが、会社の情報管理における些細なミスが、多数の者の法令違反行為を惹起することにもなることから、当該情報管理・提供のあり方には、会社担当者は十分な注意が必要である。


○ 銀行員が関与したインサイダー取引事例(事例19)

本件は、公開買付者5社が、それぞれ異なる5社の株券の公開買付けを行うことについて決定した旨の事実について、公開買付者らとの間での公開買付代理人契約又は公開買付けに係るアドバイザリー契約等の契約締結先である証券会社社員から伝達を受け、当該事実の公表前に公開買付対象者の発行するそれぞれの株券を買い付けたものである。
本件公開買付けに関する重要事実の情報の伝達者は、証券会社の社員であり、違反行為者は、公認会計士である。 伝達者と違反行為者は、中学・高校時代の先輩と後輩の関係にあったものであり、違反行為者は、私用の電話や会食の際に、情報伝達者から公開買付け事実の伝達を受けたものである。

本件は、証券会社等ファイナンシャルアドバイザーにおける情報管理の観点から、また、市場の公正性・透明性の確保という点で大きな公共的な役割を担う職にある公認会計士が違反行為に及んだという観点からも、問題視すべき事案である。今後、一層の自己規律を求めたい。


○ 証券会社社員及び公認会計士が関与したインサイダー取引事例(事例18)

本件の違反行為者は、公開買付者A社がB社の株券の公開買付けを行うことを決定した事実の伝達を受け、当該事実の公表前にB社株券を買い付けたものである。 本件の情報伝達者は、銀行員であり、M&Aのアドバイザリー業務等に従事している者であったが、同人は本件の公開買付けに関与する中で、A社と当該銀行との間で締結されていた情報共有に関する契約の履行に関し、当該事実を知り、かつて銀行の同僚で、情報伝達者が従事している業務の内容を十分に知っていた違反行為者に伝えたものである。このように公共的な役割を担う金融機関(銀行)の職員からの情報伝達により違反行為が行われたものであり、金融機関の役職員における、情報管理の徹底、法令遵守の観点から非常に問題の大きな事例である。
また、本件における重要事実の伝達経緯については、伝達者は違反行為者に対し、具体的に公開買付けには言及しないものの、銘柄名を伝えるとともに、これを購入するよう促したものである。このように、具体的な重要事実の内容の全部が伝達されなくても、情報受領者が伝達者の職務をどの程度把握していたかによっては、重要事実を伝達したものと認められる可能性があり、そのような情報に基づいて公表前に株の売買を行えば、当然にして、インサイダー取引の規制に抵触することとなる。


いずれも、インサイダー取引事例の詳細については、証券監視委ホームページに掲載されている事例集本体をご覧いただきたい。
http://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2010/2010/20100702-1.htm



◆◆ 4.不動産鑑定士の皆様へ ◆◆

本事例集には、税理士、公認会計士等、高い職業倫理・法令遵守意識が求められる者が、インサイダー取引を行った残念な事例が掲載されている。
不動産鑑定士は、不動産の適正な鑑定評価を業務として行っていることは周知のとおりであり、高い職業倫理・法令遵守意識が求められることは、税理士や公認会計士と同様である。
不動産鑑定士としての業務を行う中で、投資者の投資判断に著しい影響を及ぼすような会社の未公表の内部情報に接する機会も多いと思われる。その内部情報を知った者が、当該情報の公表前に当該会社の株式の売買を行うことは、原則としてインサイダー取引に該当することは勿論であるが、当該情報を第三者に伝達し、その第三者が当該会社の株式の売買を行うこともインサイダー取引となるので、注意していただきたい。
また、近年、第三者割当増資等の発行市場におけるファイナンスを悪用して流通市場での不公正取引につなげる「不公正ファイナンス」の問題が顕在化しつつある。具体的には、業績不振企業が不動産の現物出資による第三者割当増資を行うが、払い込まれる現金が少なく出資額の多くは不動産価格であり、増資の規模が既存の発行済株式総数の数倍から数十倍にも及ぶような事例である。
この場合、不動産鑑定士による鑑定評価が行われるが、その評価額の妥当性が懸念されるところである。
このような増資は、既存の株主の権利が大幅に希釈化されることから問題が多く、また、流通市場での不公正取引(相場操縦、風説の流布、インサイダー取引等)につながる可能性も高い。
不動産鑑定士の方々には、このような不公正ファナンスの事例が現実に存在することを念頭に置きつつ、不動産価格の評価を適正に行っていただきたいと考えている。





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